急成長する中小企業が、人事評価と報酬制度を“揉めずに”整える手順
年商が数億円規模まで伸びてくると、組織運営は一気に難しくなります。特に多いのが、「評価が社長の感覚になってしまう」「昇給の説明ができない」「頑張る人ほど不満が溜まる」といった、人事評価と報酬のねじれです。
この記事では、化粧品関連の卸売(海外調達を含む)で急成長している中小企業(経営陣2名中心、従業員増加局面)から受けた相談をもとに、行動指針を評価項目に落とし込み、部門別評価と給与テーブル、目標管理までを一体で整えたプロセスを、同じ悩みを持つ中小企業の経営者向けに再現可能な形でまとめます。
どんな会社の、どんな相談だったか(業種・規模・依頼内容)
対象は、海外メーカーからの調達を伴う卸売型ビジネスで、ここ数年で売上規模が急伸している企業です。販売チャネルが拡大し、事業はさらに伸びる見込みが立つ一方で、組織は「少数精鋭」から「部門分化」へ移行する局面に入っていました。
相談の中心は次の3点でした。
- これまでの評価制度はあるが、評価基準が曖昧で、報酬との連動も弱い
- 従業員が増える前に、評価と給与のルールを“体系として”整えたい
- 目標管理(シート運用)も含め、運用まで落ちる仕組みにしたい
なぜ今、人事評価と報酬制度が必要になったのか
成長企業ほど、次の現象が同時に起きます。
- 部門が増え、経営者の目が全員に届かなくなる
- 役割が多様化し、「同じ尺度で評価できない」状態になる
- 採用・定着において、処遇の説明責任が重くなる
この段階で制度を後回しにすると、最終的に「頑張る人が辞める」「給与が上がり続けて利益が削れる」「評価面談が炎上する」といった形で、経営課題として噴き出します。だからこそ、人が増える“前”に、粗くても筋の通った骨格を作ることが重要です。
結論:制度設計はこの順番で進める
今回、最も効果があった進め方は次の順番です。
- 行動指針(会社として大事にしたいこと)を「評価できる言葉」に翻訳する
- 部門別に「勤怠・能力・業績」の3分類で評価項目を作る
- 評価と報酬(等級・グレード)を連動させ、例外処理のルールも決める
- 目標管理(チャレンジシート)で、日々の運用に落とす
- いきなり本導入せず、プレ導入(試運転)でズレを潰す
以降で、実務上のポイントを具体化します。
ステップ1:行動指針を“評価できる言葉”に翻訳する
行動指針は、そのままだと評価に使えません。そこで有効なのが「抽象語→行動例」への翻訳です。
例えば「主体性」という言葉を使うとしても、評価面談で揉めるのは「主体性の定義が人によって違う」からです。
そこで、
- 何をしたら“できている”のか
- 何をしたら“できていない”のか
- その判断を、上司と本人が同じ絵で想像できるか
この3点を満たすように文章化します。今回の支援では、行動指針を評価の軸(勤務態度・能力)へ落とし込み、従業員がイメージできる表現に寄せることを重視しました。
ステップ2:部門別に評価項目を作る(勤怠・能力・業績)
評価項目を作る際は、「全社共通」と「部門別」を分けるのが安全です。
勤怠(勤務態度)は全社共通にする
成長期は、会社の価値観が薄まることが最大リスクです。勤怠・規律は“文化の土台”として共通項目に置きます。
能力(スキル)は部門別にする
営業、受発注、倉庫、海外調達、ECなど、部門で求める能力が変わります。今回も、10年後の組織像を前提に部門を想定し、部門別の評価項目を作りました。
業績(成果)は役割に応じて重みを変える
新人層は勤務態度寄り、マネージャー層は業績寄り、というように、役割で配点設計を変えないと不公平感が出ます。
ステップ3:評価と報酬(等級・グレード)を連動させる
ここで重要なのは、「評価が上がったのに給与が上がらない」または「給与が上がったのに評価の根拠がない」という矛盾を作らないことです。
等級・グレードは“細かくしすぎない”が原則(ただし例外あり)
成長期に複雑な等級制度を入れると、運用が破綻します。基本はシンプルにし、どうしても差をつけたい部分は「役職手当・職務手当」で吸収する設計が現場では安定します。
一方で、給与の昇給頻度が高く、評価連動の粒度を上げたい事情がある場合は、グレードを細分化して運用する選択もあり得ます(この点は会社の昇給運用次第です)。その場合でも、上位グレードの定義は特に揉めやすいため、表現の慎重さが必要です。
ステップ4:目標管理(チャレンジシート)で運用に落とす
評価制度は「面談の日だけ存在する制度」になると失敗します。日々の行動と接続するために、目標管理シートを併用します。
このときのコツは、シートの項目を増やしすぎないことです。項目が多いほど、記入の手間が増え、形骸化します。今回も、シート各項目の“意図”がぶれないように確認し、運用時の説明ができる状態を整えました。
失敗しやすいポイントと、現場で効いた対策
1)プレ導入(試運転)でモチベーションが落ちる問題
「どうせ今は給与に反映されないなら、やる意味がない」と受け取られるリスクがあります。
対策は、プレ導入の意味を次のように定義して伝えることです。
- 本導入のために、評価基準の“ズレ”を直す期間
- 評価に沿った行動へ調整するための猶予期間
- 報酬に直結させないからこそ、安心して改善できる期間
2)抽象語だらけで、結局“社長の感覚”に戻る問題
対策はシンプルで、抽象語を使うなら必ず「行動例」をセットにします。質問と具体例の往復で文章を固めると、精度が上がります。
3)成長スピードに制度が追いつかない問題
対策は、最初から完璧を狙わず、「骨格→運用→改訂」のサイクルにすることです。制度は作って終わりではなく、事業の変化に合わせて“育てる”ものです。
支援の結果(得られた変化)と、次の打ち手
今回の取り組みで大きかったのは、評価と報酬を「経営者の話し合い」から「会社の方針として説明できる形」へ移行する土台ができたことです。評価軸と処遇の考え方がつながることで、採用・育成・定着の議論も前に進みやすくなります。
一方で、成長が続く企業ほど次の論点が重要になります。
- 管理職(中間層)をどう設置し、評価者として育てるか
- 部門間連携を評価にどう組み込むか
- 事業拡大に伴う資金計画(運転資金・融資)をどう整えるか
同じ悩みがある方へ(無料相談のご案内)
もし、次の状態に心当たりがあれば、一度状況整理からご一緒できます。
- 評価が曖昧で、昇給・賞与の説明に自信がない
- 等級・評価・報酬がバラバラで、社員が納得していない
- 人が増える前に、制度の骨格だけでも整えておきたい
無料相談では、現状の制度・組織規模・採用計画を踏まえ、「どこから着手すると最短で整うか」を整理します。