広告よりも大切なこと――中小企業は“ブランド”から始めよう

「創業したばかりのうちは、いい商品を作ることが先。ブランドなんて後でいい」

──そんなふうに思っていませんか?

実は、創業初期こそ“ブランド”の有無が、事業の未来を大きく左右します。

商品が良いだけでは売れない時代。

顧客に信頼され、選ばれる企業になるためには、ブランドという“軸”を最初から持つことが欠かせません。

本記事では、創業時に必ず考えるべきブランディングの基本から、コンセプト設計、ネーミング・ロゴの役割、ファンづくりと採用効果に至るまで、実践的にわかりやすく解説します。

「うちの会社は、何のためにあるのか?」

その問いに自信を持って答えられるようになる一歩を、今ここから始めましょう。

「創業におけるブランドの必要性とは?」

創業とは、ゼロから事業を立ち上げる勇気のいる行為です。

アイデアを形にし、サービスや製品を用意し、顧客と接点を持つ。

そのどれもが、初めて尽くしで、不安と期待が入り混じることでしょう。

ですが、多くの起業家が見落としがちなことがあります。

それが「ブランドを創る」という視点です。

「まだ商品もできていないのに、ブランドなんて早すぎる」
「うちは中小企業だし、ブランドは大企業がやることでは?」

そんな声が聞こえてきそうです。

しかし、創業段階だからこそ、ブランドづくりは最も重要な経営戦略なのです。

ブランドとは、ロゴやネーミングだけを指すものではありません。

『ブランディング・ファースト』(宮村岳志)では、「ブランディングとは経営そのものであり、広告費をかける前にまず構想すべき『戦略』である」と明言されています。

特に中小企業では、「何屋さんなのか」「どんな価値を提供するのか」「誰に、どう伝えるのか」が曖昧なまま事業をスタートしてしまうことが多くあります。

その結果、価格競争に巻き込まれたり、「なんとなく良さそうだけど、よく分からない」という状態で、顧客にスルーされてしまいます。

ここであなたの心の声を代弁しましょう。

その気持ちは痛いほどわかります。

でも実は、ブランディングは“余裕ができてから”やるものではなく、“最初にやることで、余裕を生む”ものなのです。

玉樹真一郎氏の『コンセプトのつくりかた』でも、ブランドの原点である「コンセプト」は、ビジネスの土台であり、「何を作るべきか」「誰に届けるべきか」を導いてくれる指針になると書かれています。

これは創業者にとって、経営に迷いが生じたときの“北極星”にもなります。

また、創業者の想いや哲学を言語化し、見える化することは、商品開発にも、営業にも、採用活動にも直結します。

「正直、そこまで余裕がない。事業を軌道に乗せるのが先だ」

それこそがブランドの本質です。

ブランディングとは、自分たちの存在価値を明らかにすること。

言い換えれば、「なぜこの事業を始めたのか?」という問いに、顧客が共感できるかたちで答えを示す行為です。

創業時は、やることが山積みです。

しかし、何を優先すべきかを考える上で、「ブランドをつくること」が最も投資対効果が高いアクションの一つであることを、ぜひ心に留めていただきたいのです。

『商品が良ければ売れる』は幻想。ブランドが担う信頼の構造

創業間もない企業の多くは、まず「いい商品・サービスを作ること」に集中します。

これは当然です。

しかし、ここでよくある誤解があります。

「いい商品をつくれば、お客さんは自然に見つけてくれて、売れるはずだ。」

この考え方には、大きな落とし穴があります。

実際には、「いい商品」だから売れるのではなく、「いいと思われる商品」だから選ばれるのです。

顧客は、すべての商品を比較し、実際に使ってから判断しているわけではありません。

限られた時間と情報の中で、「信頼できそうな商品」や「共感できる企業」から買うのです。つまり、選ばれるのは「価値が伝わる商品」なのです。

この時、強力な武器となるのがブランドです。

『実務家ブランド論』(片山義丈)では、ブランドの役割を「見たことも使ったこともない商品でも、信頼してもらうための“保証書”」と表現しています。

価格で勝負せず、品質の差をアピールするよりも先に、ブランドが築く「見えない信頼」が、顧客の選択を左右するのです。

ここで読者の心の声を拾ってみましょう。

「いや、うちは広告費もかけられないし、そんなブランド戦略なんてムリだよ」

安心してください。

ブランディングに必要なのは、広告ではありません。

まずは、自社が「誰に、どんな価値を届けたいのか」というメッセージを明確にし、伝えることから始まります。

これは、起業初期のスタートアップ企業にも同じことが言えます。

『「起業参謀」の戦略書』(田所雅之)では、創業初期のスタートアップが陥りがちなミスとして、「プロダクトアウト思考=作ったものを売ろうとする」姿勢を指摘し、代わりに「ブランドやパーパスから市場との関係性を構築せよ」と提唱しています。

つまり、創業の段階で「なぜこれを届けたいのか」「誰の何をどう変えるのか」を掘り下げ、そこから導いた“想い”を、しっかりと外に見せていく必要があるのです。

この構造を『「価値」こそがすべて!』(フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー)では「バリューベース戦略」と呼び、企業が価値を創造し、それを的確に伝えることが競争優位を生むと述べています。この「伝える力」こそが、ブランディングの要です。

商品力はもちろん大事です。

ただし、それが顧客に伝わり、信頼されて初めて「売れる」という成果に結びつくのです。

そして、その「信頼の構造」を担うのが、創業初期からのブランディングの役割なのです。

コンセプト設計:ブランドの軸をどう作るか

「ブランドの核って、結局どうやって作ればいいんだろう?」

これは、創業者や新規事業担当者が必ず直面する悩みの一つです。

ロゴやネーミングを考える前に、まずやるべきなのは「コンセプト」の設計です。

コンセプトとは、ブランドの“根っこ”。

土台となる「なぜこの事業をやるのか」「誰に、どんな変化をもたらしたいのか」といった、ブランドの存在理由です。

玉樹真一郎氏の『コンセプトのつくりかた』では、「コンセプトとは世界を変える“しあわせのカケラ”」と表現されます。

決して“思いつき”ではなく、「自分たちが信じる価値」と「顧客の本音」との交点にある、再現性のある思想です。

では、その設計プロセスはどう進めれば良いのでしょうか?

1つの有効な方法は、【悪口から入る】という手法です。

あえて、「世の中の不満」や「イケてない既存の価値」に目を向けてみましょう。

たとえば、

  • 「もっとあたたかい接客をしてくれる美容室があればいいのに」
  • 「この分野って、なんか偉そうな専門家が多くて苦手」
  • 「中小企業なのに、無理に大企業の真似をしようとしている」

こうした“モヤモヤ”を言語化することが、実はブランドの起点になります。

『なまえデザイン』(小藥元)でも、ネーミングの核には「違和感」や「引っかかり」が大事だと述べられています。それは単なるコピーではなく、思想であり、意思表明です。

ここで読者の心の声を拾ってみましょう。

「でも、そんなに尖ったこと言ったら、お客さんが減るんじゃない?」

実は逆なのです。ブランドは「誰にでも好かれる」ことを目指してはいけません。

「この人の言葉、わかる」と“強く共感する少数”に届けることこそが、最初の顧客をつかむ秘訣です。

ターゲットを絞り、深く共感されるメッセージを創る。

このプロセスを経ることで、「世界をこう変えたい」「こういう人たちと共に歩みたい」という軸が生まれます。

さらに、『ブランド戦略・ケースブック2.0』(田中洋)では、成功事例を模倣するのではなく、「自社ならではの再現性ある要素」と「市場コンテキスト」を見極めてコンセプトをつくるべきだと示唆しています。

つまり、ブランドのコンセプトとは、

  • 自社の哲学(創業の動機)
  • 顧客の本音(変わってほしい未来)
  • 社会の文脈(今のトレンド・課題)

この3つを接続する“ストーリー”なのです。

その上で、ネーミングやロゴ、タグラインといったアウトプットを設計していけば、ブレない、愛されるブランドが生まれます。

名前・ロゴ・ビジュアルの役割と考え方

コンセプトができたら、次はそれを「形」にしていく段階です。

ここで初めて、ブランド名やロゴ、色使い、書体といった“ビジュアル”の話になります。

「名前なんて思いつきでいいんじゃない?」
「ロゴはデザイナーに任せればなんとかなるでしょ?」

という声も聞こえてきそうですが、ここでもっとも大事なのは、【意味】と【一貫性】です。

『なまえデザイン』(小藥元)は、こう言います。「名前とは命であり、ブランドの意思そのもの」だと。名前は単なる記号ではなく、「このブランドは何者か」を伝える強力なメディアです。

たとえば、「スターバックス」という名前は、航海士スターバックに由来し、冒険や物語の世界観を感じさせます。一方で「ZOZOTOWN」は、ファッションという軽快で若々しい印象を含んでいます。

ブランド名において大切なのは、以下の3点です。

  1. 覚えやすい(短く、音に特徴がある)
  2. 意味がある(背景にストーリーがある)
  3. 独自性がある(検索性が高く、他社と被らない)

この3つを満たすことで、ただの「名前」ではなく、「ファンを生む呼び名」になるのです。

ロゴについても同様です。

『ブランディング・ファースト』(宮村岳志)では、ロゴを「経営とデザインの交点」とし、ビジュアルは見た目以上に企業の姿勢や価値観を伝えるものだと位置づけています。

ここで読者の心の声を代弁しましょう。

「でも正直、デザインとか苦手で……外注すればいいんじゃ?」

もちろん外注はOKです。

ただし、その前に「自社のブランドがどう見られたいのか」「どういう印象を与えたいのか」という設計思想を明確にしておく必要があります。

デザインは「伝える手段」であり、「意思の表現」です。

たとえば、以下のような問いを自分に投げかけてみてください。

  • 私たちのブランドは、“どんな人格”として見られたいか?
  • 顧客に与えたい印象は?(例:信頼感、親しみ、革新性)
  • 他のブランドと並んだ時に、どう差別化されるか?

この問いへの答えを、色・フォント・形状に翻訳する作業が、ブランディングにおける「見た目の戦略」なのです。

さらに『手にとるようにわかる ブランディング入門』(一色俊慶ほか)では、「顧客の頭の中に“記憶として残るか”がビジュアル設計の勝負どころだ」と述べられています。

つまり、「なんか良かった」ではなく、「なんか忘れられない」と思わせるための工夫が、名前・ロゴ・デザインに求められているのです。

この章の最後にもうひとつ。

ブランドのビジュアルは、時間とともに「使われる」ことで価値を持ちます。

ロゴは、ただ貼りつけるのではなく、名刺、看板、SNS、封筒など、あらゆる接点に展開されて初めて、認知と信頼の「積み重ね」が生まれます。

次回は、この「積み重ね」が顧客のファン化、そして人材採用にどのように影響していくのか。

ブランドの“成果”について掘り下げていきます。

ブランディングが生む“ファン”と採用効果

「ブランドを育てたら、何が変わるのか?」

これまで紹介してきた内容を、そう総括して問いたくなる方も多いでしょう。

結論から言えば、ブランドは“売上”だけでなく、“信頼”と“人”を引き寄せる力を持っています。

そしてこれは、中小企業にとってこそ極めて重要な経営資源となります。

たとえば、「共感して買う」ファンは、価格の安さだけで動きません。

『実務家ブランド論』(片山義丈)では、ファンとは「ブランドの言葉に、自分自身を重ねてくれる存在」だとしています。

これは単なる“リピーター”ではなく、共鳴し、応援し、自らのSNSや口コミでブランドを広めてくれる存在です。

ファンを得るということは、「選ばれる理由を持つ」こと。

そしてそれは、“広告費をかけなくても売れる”状態を作る、極めて持続性の高いビジネスモデルなのです。

ここで読者の心の声を拾ってみましょう。

「ファンなんて、そんな簡単にできるの?」

たしかに、一朝一夕にはいきません。

けれども、ブランドに込めた哲学・想い・一貫性を、丁寧に“言葉と体験”として提供し続ければ、必ずその言葉に「この会社、好きかも」と反応する人が現れます。

そして、この“好き”という感情は、実は【採用】にも直結します。

『手にとるようにわかる ブランディング入門』でも、ブランドの確立は「信頼できる会社に入りたい」という求職者のニーズを満たすと述べられています。

とりわけ中小企業にとって、採用は資金力よりも「会社の魅力」が勝負の分かれ目になります。

いまや、求人情報はインディードやSNSで一瞬にして比較され、応募者は“働くイメージ”を持てなければすぐに離脱します。

だからこそ、「うちの会社は、なぜこの事業をやっているのか?」「何を目指しているのか?」「どんな未来を一緒に作れるのか?」というブランドメッセージが、採用において強力な差別化ポイントとなるのです。

実際、私の支援先のある企業では、ブランド再設計によって「理念に共感して応募したい」と話す求職者が3倍に増えました。

人材の定着率も向上し、「この会社は何か違う」と語る社員が増えたのです。

ブランドは、事業の売上だけでなく、組織の文化にも影響します。

社員が自社を“誇れる”ようになると、サービスの質が自然と上がり、それがさらに顧客の満足につながります。まさに、信頼の好循環です。

まとめると、ブランディングがもたらす効果は以下の3つに集約されます。

  1. 選ばれる理由が明確になる(価格競争からの脱却)
  2. 応援される顧客=ファンが生まれる(売上の安定)
  3. 共感する人材が集まる(採用・定着の強化)

これらはすべて、経営における“再現性のある強み”になります。広告に頼らず、価格を下げずとも成長できる仕組み。それを可能にするのが、創業時からの“ブランドづくり”なのです。

まとめ

創業時におけるブランディングの重要性について、5つの視点から解説してきました。

改めて、なぜ創業と同時にブランドづくりを考える必要があるのか。

それは、ブランドが単なる“装飾”ではなく、“経営の軸”だからです。

「うちはまだ小さな会社だし、ブランドなんて先の話だよ」
「いい商品をつくれば、いつか売れるはず」
「うちのことは、いずれ誰かが見つけてくれるだろう」

こうした声が中小企業の現場では少なくありません。

けれども、時代は大きく変わりました。

いい商品が“埋もれる”時代、信頼のない企業には“人も資金も集まらない”時代において、ブランドが果たす役割はますます大きくなっています。

『ブランディング・ファースト』(宮村岳志)では、ブランドを「売る前の約束」と位置づけ、「事業戦略そのもの」と定義します。

これはまさに、創業時の経営者が最初に持つべき視点なのです。

創業とは、世の中に問いを投げかけることです。
「このサービスは、何のために存在するのか?」
「誰に、どんな価値を届けたいのか?」
「私たちは、どんな未来をつくりたいのか?」

その問いに、言葉とデザイン、行動で答えていくのがブランドです。

ブランドとは、会社そのものの“人格”です。理念・世界観・提供価値の一貫性を伝え続けることで、顧客や社員が「この会社を信じていい」と思えるようになるのです。

そして信頼される企業には、以下のような好循環が生まれます。

  • 顧客がリピーターからファンへと変わる
  • 広告費をかけずに売上が上がる
  • 応援される採用ができる
  • 自社に誇りを持つ社員が増える
  • 社会的信用が高まり、新しいチャンスが舞い込む

すべては、「ブランドがあるかどうか」で変わります。

ここまで読んでくださったあなたは、すでに気づいているはずです。

「私たちがやっていることには意味がある。だったら、それをちゃんと伝えたい」

それこそが、ブランディングの第一歩です。

すべての中小企業にブランドが必要です。

規模ではありません。想いと設計力が、未来を変えるのです。

創業とは、まさに“ブランドを生み出す瞬間”です。

まだ白紙だからこそ、どんな色にも、どんな形にも育てられる。

どうか、あなたの想いを言葉にし、形にし、ブランドという旗を掲げてください。

それがあなたの事業を育て、あなた自身の人生を照らす、最強の武器になるはずです。

【参考書籍】

・コンセプトのつくりかた/玉樹真一郎

・ブランディング・ファースト ――広告費をかける前に「ブランド」をつくる/宮村岳志

・なまえデザイン そのネーミングでビジネスが動き出す/小藥元

・「価値」こそがすべて!―ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義/フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー

・ブランド戦略・ケースブック2.0/田中洋

・「起業参謀」の戦略書――スタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク/田所雅之

・実務家ブランド論/片山義丈

・手にとるようにわかる ブランディング入門/一色俊慶・金子大貴