“採れない時代”の採用学──中小企業が選ばれるためにすべきこと

「求人を出しても応募がこない……」

「やっと入っても、すぐ辞めてしまう」

そんな“採用の壁”に悩む中小企業の声を、日々の現場で数多く耳にします。

売り手市場が続く今、優秀な人材から“選ばれる企業”になるには、もはや従来型の採用活動では通用しません。

ですが、むやみに費用や工数を増やすのも現実的ではない――。

そこで本記事では、採用学・行動科学・組織論といった知見をもとに、「成果の出る採用活動」へ転換する5つの視点をご紹介します。

「採用は感覚ではなく、設計できる」
その手ごたえを、ぜひ読み進めながら感じてみてください。

採用の悩みは“相手視点”の欠如から始まる

「なぜ、うちの求人には応募が集まらないんだろう?」
「ようやく来てくれた人がすぐに辞めてしまう……」

これは、多くの中小企業経営者が感じている“採用の壁”です。

しかし、この疑問に向き合うとき、私たちは無意識に「自社目線」でしか物事を見ていないことが多いのです。たとえば、求人票に「アットホームな職場」と書くことで、安心感を伝えたつもりでも、求職者には「プライベートに干渉されそう」「古くさそう」というネガティブな印象を与えているかもしれません。

「うちの魅力は給与じゃ勝てないけど、人柄や育成には自信がある。でも、それって伝わってるのかな……?」

まさに、これが採用における“伝わらなさ”の壁です。

採用とは、「組織の魅力を、相手の言葉で伝え、共感してもらう営み」だと、採用学の服部泰宏氏は指摘します。企業側の思い込みだけでは、相手の心は動かないのです。

『人と組織の行動科学』(伊達洋駆)では、採用活動がうまくいく組織には共通して「採用に関わる全員が“求職者視点”を持って動いている」ことが紹介されています。求職者が企業に感じる「働く意味」や「期待とのギャップ」を丁寧に解消する姿勢が、応募の量・質ともに影響を及ぼしているのです。

このように、自社都合ではなく、「求職者にとっての意味ある体験」として採用活動を再構築することが、第一歩です。

たとえば、以下のような問いが鍵になります:

  • 求職者がこの求人情報を見たとき、「自分ごと」として受け取れるか?
  • 面接で、応募者の人生や価値観に寄り添う姿勢を示せているか?
  • 内定を出した後も「この会社で働きたい」と思ってもらう工夫があるか?

これらはすべて、“採用”という接点で企業の文化と姿勢が問われる瞬間です。

採用活動に「科学的視点」を──採用学の基本とは

「採用は運次第」と思っていませんか?

『採用学』(服部泰宏)は、まさにこの状態に警鐘を鳴らします。著者は、採用とは「戦略的に設計し、検証・改善を繰り返すべき経営活動」であり、科学的に取り組めば再現可能な成果が得られると主張しています。

では、採用における“科学的視点”とは何でしょうか?

その第一歩は、「採用の目的を明確にすること」です。ただ人を増やすために採るのではなく、「どのような人材が、どのポジションで、どのように成果を出すのか」という問いを定義することが求められます。

「なんとなく良さそう」で採った人が定着せず、「いい人材がいない」と嘆く──このミスマッチの多くは、目的が曖昧なまま採用していることに起因します。

科学的な採用活動では、以下のプロセスが重視されます。

  1. 職務の明確化:ポジションごとに求められる能力や行動特性を定義する。
  2. 母集団形成の最適化:自社に合ったチャネル・タイミング・メッセージでアプローチする。
  3. 選考基準の明文化と標準化:直感ではなく、行動面接や適性検査などを活用し評価の一貫性を担保する。
  4. 定着・活躍の追跡:入社後のパフォーマンスや退職傾向をデータで分析し、採用基準を改善する。

これらは、マーケティングや営業と同様、「仮説→実行→検証→改善」のサイクルで進めるべきものです。

「でも、うちは中小企業でそんなにデータは取れないし……」

そんな声が聞こえてきそうですが、安心してください。

最初は、採用後3か月・6か月・1年後の面談で「どんな点が良かったか」「何が合わなかったか」を聞くだけでも立派な“フィードバックループ”になります。

重要なのは、「採用は一発勝負ではなく、試行錯誤で精度を上げていくべきプロセスである」という認識をチーム全体で共有することなのです。

「応募がこない」問題を構造的に読み解く

「求人を出しているのに、まったく応募が来ない……」
「以前よりも明らかに応募数が減っている。何が変わったのだろう?」

この“応募ゼロ現象”は、少子高齢化や労働市場の売り手化だけでは語りきれません。

『人と組織の行動科学』でも指摘されているように、問題の本質は「求職者が“自分ごと化”できる魅力が伝わっていない」ことにあります。

多くの企業が抱える「応募がこない」状態は、主に以下の3つの構造要因に整理できます。

1. 情報の“量”はあるが、“質”が足りない

求人票に必要事項が網羅されていても、求職者が知りたいのは「どんな毎日を送れる職場なのか」「そこで働く自分を想像できるか」です。

「アットホームな職場」「やる気のある人歓迎」など、抽象的な言葉では何も伝わりません。

「この会社で働いたら、こんな経験ができそう」
「この職場なら、自分の強みが活かせるかも」

――そんな具体的なストーリーを描ける情報が必要です。

2. 自社の“らしさ”が見えていない

応募が来ない理由の一つに、「何の会社かよく分からない」「どの会社も同じに見える」という印象があります。

採用は、会社の“らしさ”を言語化し、他社との違いを明確に打ち出すブランディング活動です。『チームが自然に生まれ変わる』では、「リーダー自身が語る職場のリアルな熱量こそが、組織の魅力を伝える力になる」と説かれています。

「私たちは、なぜこの仕事をしているのか?」
「何を大切にし、どんな未来を描いているのか?」

この“存在意義”のストーリーが求職者を動かすのです。

3. 採用チャネルの選択ミス

「ハローワークに出したけど反応がない」「求人広告に高い費用をかけたのに結果が出ない」――これは、母集団形成のチャネル設計に問題があるケースです。

若手を採りたいのに、SNSも活用していない。専門職を採りたいのに、一般向け求人媒体しか使っていない。こうしたミスマッチは、たとえるなら“魚がいない池にエサを撒いている”ようなものです。

まずは、欲しい人材像を明確にし、「その人が日常的に何を見て、誰の声を信じているか」を分析しましょう。紹介、リファラル、イベント登壇、YouTube動画……選択肢は想像以上に多様です。

「応募がこない」の裏には、“伝わっていない”“見えていない”“届いていない”という構造的なズレが潜んでいます。

それを紐解くことが、採用活動の第一歩なのです。

“選ばれる企業”になるための魅力づくりとは?

「求人は出している。でも、人が集まらない……」
それは、「企業が人を選ぶ時代」から、「人が企業を選ぶ時代」に変わった証です。

つまり、採用の成否は「いかに選ばれるか」にかかっています。

では、どんな企業が“選ばれている”のでしょうか?

その答えの鍵は、「共感」です。
求職者は給与や条件だけではなく、「価値観」や「働く意味」に共鳴できるかを重視しています。

『理念経営2.0』(佐宗邦威)は、この点を非常に本質的に捉えています。企業理念が“建前”ではなく、“自分ごと”として語られているかどうかが、組織の魅力を左右するのです。

「うちには理念があるから大丈夫」という経営者の方もいるかもしれません。
でも、その理念、日常会話で語れていますか?
朝礼で社員が自然と口にしていますか?

“選ばれる企業”になるためには、理念がポスターの中ではなく、対話の中で生きていなければなりません。

魅力づくりの3つの実践視点

1. 価値観を「言語化」する

「大事にしていることは何か?」を曖昧にせず、具体的に言葉にします。たとえば「チャレンジを応援する文化」ではなく、「失敗しても叱らない。2回目はもっと工夫してね、がうちのルール」など、行動に落とし込まれた表現が重要です。

2. 社員のリアルな声を活かす

現場の社員がどんな思いで働いているのか、それをコンテンツ化することで、求職者との接点が増えます。動画・SNS・採用ページで「社員が語るストーリー」があるだけで、「ここで働くイメージ」が一気に明確になります。

3. 面接の時間を“選ばれる機会”と捉える

面接とは「評価する場」ではなく、「お互いを知る場」。『謙虚なコンサルティング』(エドガー・シャイン)が説くように、対話を通じて信頼関係を築く“レベル2の関係”を採用面接でも目指すべきです。

求職者の価値観に耳を傾け、自社との接点を探る姿勢が、「この人たちと働きたい」と思わせる最大の武器になります。

「会社を選ばれる側として整える」
――これが、いま求められる魅力づくりの本質です。

行動科学で採用面接を変える──入社後活躍を見抜く技術

「面接で良い印象だったのに、すぐ辞めてしまった……」
「期待したほど、活躍してくれない……」

そんな経験はありませんか?

実は、多くの企業が“勘”や“経験則”だけで採用を進めていることに気づかないまま、「たまたまいい人が来たらラッキー」「人が来ないのは景気のせい」と思考停止に陥っています。

この“選考のズレ”を減らす鍵は、面接の「見方」と「訊き方」を変えることにあります。

『人と組織の行動科学』(伊達洋駆)では、面接での評価エラーとして、「第一印象バイアス」や「話しやすさ=活躍できそう」といった誤認が多発していることが指摘されています。

入社後の活躍を予測する“構造化面接”とは?

これを改善する方法として、近年注目されているのが構造化面接です。これは、次の3つのポイントに基づいて設計された面接のことです。

  1. 事前に定義した評価項目に沿って質問する
     →「何を評価するか(スキル、志向、行動特性)」を明確にする。
  2. 応募者ごとに質問内容を変えない
     →「面接者の印象」で判断がブレるのを防ぐ。
  3. 評価基準をスコア化し、面接後に振り返る
     →主観ではなく、客観的な記録として残す。

特に有効なのが、「過去の行動」に基づく質問、いわゆるSTAR法(Situation, Task, Action, Result)です。

たとえば:

「これまでにチーム内で意見が分かれたとき、どのように調整した経験がありますか?」
「そのとき、あなたは具体的に何をしましたか?」
「結果としてどうなりましたか?」

こうした質問を通じて、その人が実際にどう行動してきたかを探ることで、入社後の再現性を高められるのです。

“性格”より“状況に応じた行動”を見抜く

多くの面接では「この人は明るそうだ」「コミュニケーション力がありそう」といった性格的評価に偏りがちです。

しかし、行動科学では「人の行動は環境に強く影響される」とされています。つまり、“性格”よりも、“どのような状況で、どのように考えて動くか”を見抜く視点が重要なのです。

そのために、以下のような観点を持つと効果的です:

  • プレッシャー下での意思決定経験があるか?
  • 未経験業務に挑戦した際の工夫は?
  • 周囲との関係構築で大事にしていることは?

これらの視点から、“成果”ではなく“プロセス”に着目することで、より的確な人材選びが可能になります。

面接は、相手を評価する場ではなく、「お互いの未来を見極める対話の場」です。
形式より本質、印象より行動、そして“良い人”より“自社で活きる人”を見抜く視点を持ちましょう。

まとめ:採用は「未来の仲間づくり」

ここまで5つの視点から、「良い採用とは何か」を深掘りしてきました。

  • 相手視点に立つことで、採用の本質が見えてくる
  • 採用活動は再現可能な“科学”である
  • 応募がこない理由には構造的な“ズレ”がある
  • 選ばれる企業には、“語られる価値観”がある
  • 面接は“行動”から未来を読み解く技術である

「採用は運だ」と言われた時代から、「採用は設計できる」という時代へ。

そのために必要なのは、「数を採ること」でも「話術で惹きつけること」でもなく、自社がどんな人を必要とし、どんな未来を一緒に描きたいのかを、自分の言葉で語る力です。

そして、求職者に「あなたと働きたい」と思ってもらうための準備を、誠実に積み重ねていく姿勢です。

「いい人が来たら採りたい」ではなく、
「この人に来てもらうためにどう変わるか」と考えたとき、
組織の文化や、リーダーのあり方、働き方そのものが進化し始めます。

つまり、採用の改善は、組織づくりの最前線なのです。

これから採用に取り組むすべての中小企業の皆さんに、伝えたい言葉があります。

「採用とは、未来の仲間をつくること。」

そう考えると、求人票を書く手にも、面接のまなざしにも、きっと少しあたたかさが宿るはずです。

【参考書籍】

採用学/服部泰宏
人と組織の行動科学/伊達洋駆
チームが自然に生まれ変わる 「らしさ」を極めるリーダーシップ/堀田創・李英俊
理念経営2.0 ―― 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ/佐宗邦威
謙虚なコンサルティング ― クライアントにとって「本当の支援」とは何か/エドガー・H・シャイン、金井壽宏