会社の技術を守るために知っておきたい、小規模企業向けの実用新案権の取得
千葉県佐倉市の中小企業診断士の横山です。
企業には、「技術力」というものがあります。
それは大企業に限った話だけでなく、中小企業や下町の零細企業であっても、素晴らしい独自技術を持った会社が数多存在します。
これらの技術は「知的財産権」として、法律上保護を受けるべき大事な会社の財産です。
しかし、中小企業や零細企業ともなると、大事な技術を守るための知的財産権による保護がちゃんと行われていないのも現状です。
本来、会社の独自技術というのは、その会社の存続を左右するような重要な財産であり、もしもこれを侵害され、勝手に利用されてしまった場合には、企業は競争力を失いかねません。
そこで、今回は最も身近な知的財産権である「実用新案権」を解説してみたいと思います。
【1.小規模企業と知的財産権】
知的財産権というのは、主に特許権、実用新案権、商標権、意匠権の略です。
これらの権利については特許庁で登録をすることで、その技術を登録した人間・法人以外は勝手に使用できなくなります。
ちなみに小規模企業における知的財産権の取得状況はこのような感じになっています。
小規模企業の場合、先に説明した4つの知的財産権のうち、実用新案権と商標権の登録が特に多いのが特徴です。
一番少ないのが特許権になります。
なぜ特許権の登録が少ないのかと言うと、特許権は登録までにおよそ3年以上かかる事もあり、かつ費用が高額なため、小規模企業にとってはなかなか手が出し辛いのが現状です。
逆に言えば、これら以外の知財、特に実用新案権や商標権については小規模企業も積極的に利用しているので、これらの知財の取得については前向きに考えてみてはいかがでしょうか。
とりわけ会社の独自技術を守る観点から言えば、実用新案権の取得については前向きに考えていただきたいところです。
【2.実用新案権とは何か】
まず、”実用新案権”という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、こちらは簡単に言えば「簡易特許権」のようなものです。
特許権は審査に非常に長い時間が必要ですが、実用新案権は特許権ほど時間が掛かりません。
なぜなら、実用新案権は中身の審査が不要だからです。
特許権は、特許を受ける技術の中身について、権利を受けるに値するかどうかの慎重な審査を長い時間をかけて行います。
しかし実用新案権は、出願した書類に不備さえなければ2、3ヶ月程度で登録できてしまいます。
従って特許権のように、およそ14万円ほどかかる審査料が不要になります。
ただし、仮に権利の侵害があった場合には自分で「実用新案技術評価書」というものを特許庁から取り寄せる必要があります。
この実用新案技術評価書というのは、特許庁の審査官によって実用新案登録された内容について審査した結果についての報告書です。
つまり、実用新案権の中身の審査は、この「実用新案技術評価書」の発行申請をした段階で初めてされると言っても過言ではありません。
そして、この時に実用試案技術評価書に悪い内容が書かれてしまうケースもあります。
悪い内容というのは簡単に言うと、「この技術は実用新案権で保護するに値しない」というものです。
つまり、実用新案権を取った後にも関わらず、特許庁からその内容について、実質的に否定されてしまうことになるわけです。
そうなってしまうと、仮に権利の侵害があったとしても、それを侵害だと裁判所等に認めてもらう事ができなくなる可能性が非常に高くなるでしょう。
なので実用新案権を取得する場合には、他所にない技術である事が重要です。
【3.知的財産権の相談場所を利用しましょう】
実用新案権などの知財には興味があるけど、自力で取得のための手続きを全て行うというのは難しいものです。
そもそも情報が少ない状況では、実際に動きようがないかもしれません。
そういう時はまず、「INPITの知財総合支援窓口」を利用しましょう。
INPITとは、経済産業省が所轄する独立行政法人で、企業の知的財産権の取得を国として支援するための組織です。
このINPITの支援窓口には知的財産権に関する専門家が配置されていますので、知財や技術に関するアイデアの段階から、実際の事業展開、果ては海外展開までもワンストップで支援してくれます。
実用新案権を取得したいけど、他にすでに取得している企業がいるのではないか?といった課題についても、ここで相談すれば支援を受けることができます。
他にも、自身の持つ知的財産権を海外で侵害された場合や、海外でも同じ知的財産権を取得したいという国際出願を行う場合、さらには知的財産権の出願や審査にかかる費用についての減免措置に手続きに関する相談にも応じてもらえますので、まずはINPITの知財総合支援窓口を利用してみましょう。
ちなみに相談窓口については各都道府県で設置場所が異なるので、知財総合支援窓口「https://chizai-portal.inpit.go.jp/」にアクセスし、ホームページ画面の「全国の窓口一覧」から調べてください。
まとめ
日本は世界に誇る数多くの産業技術を有する国であり、とりわけ中小企業や小規模企業は、日本の産業を根底から支えるような独自技術の豊富な宝庫でもあります。
しかしながら、これらの技術についてはきちんと保護を行っていないというケースも多く見られます。
そして、やはりその原因としては、知的財産に対する情報の少なさ、取得するためのハードルの高さ、そもそもどこに相談したら良いのか分からないという点にあるのではないかと思います。
なので、まずは比較的ハードルが低く、取得費用も安くて済む「実用新案権」の取得について検討してみることをお勧めしました。
そして実際に取得してみようと考えた場合には、専門家である弁理士に直接依頼するのも良いですが、国が支援する公的機関である「INPITの知財総合支援窓口」にまずは相談してみるのが良いでしょう。